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名古屋高等裁判所 昭和54年(く)32号 決定

少年 M・S(昭四一・一・三一生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、附添人弁護士○○○○、同○△○○連名の抗告申立書に記載されているとおりであるから、ここにこれを引用する。

一  論旨第一点について

所論(所論中に、少年法三条二項又は三項とあるのは、同法三条一項二号又は三号の誤記と認める。)は、要するに、原決定の本件非行事実に関する判示を精読しても、原決定が、本件について、少年法三条一項二号に該当する事実を判示しているのか、それとも同条同項三号に該当する事実を判示しているのかが必ずしも明確ではないのに加えて、仮に、原決定の該判示が前者の趣旨にいでたものとしても、該判示をもつてしては、いまだ前同条一項二号所定のいわゆる触法行為に該当する具体的事実の特定が十分になされているものとは認めがたく、また、仮に、原決定の該判示が後者の趣旨にいでたものとしても、該判示をもつてしては、これが前同条一項三号のイないしニのいずれの事由に当たる事実を判示しているのかが明らかではないから、ひつきよう、原決定には、決定に影響を及ぼすことの明らかな少年審判規則三六条違背などの手続違反の違法がある、というに帰着する。

所論にかんがみ、原決定書を調査・検討するに、原決定は、本件の非行事実として、「少年は、中学一年時より怠学、盗み等の問題行動をおこすようになつたが、名古屋市児童相談所、中学校、保護者の指導にもかかわらず、学校に登校しないものであつて、保護者の正当な監督に服しない性癖があると認められ、その性格および環境に照らして、将来刑罰法令に触れる行為をするおそれがある。」旨を判示し、その適用法条として少年法三条一項三号を掲記していることが明らかであるところ、原決定の右摘録のごとき本件非行事実に関する判示をその該当法条に関する記載と併せて考察すれば、原決定の右非行事実に関する判示はやや簡潔に過ぎるきらいはあるものの、該判示が、本件においては少年に同条一項三号イ所定の事由がある旨を具体的に説示したものであることを看取するに十分であり、原決定の右判示に所論のごとき意味不明ないしは説示不十分のかどはないものと認められるから、原決定に所論少年審判規則違背などの手続違反のかどはなく、論旨は理由がない。

二  論旨第二点について

所論は、要するに、少年を教護院に送致した原決定の処分が著しく苛酷に過ぎて不当である、というのである。

所論にかんがみ、関係記録を調査・検討するに、少年の要保護性の程度等は、原決定がその「保護処分を必要とする理由」欄中において正当に説示するとおりであると認められ、このような少年の性格傾向、生活態度及び保護者の保護能力など諸般の事情を総合考察すると、少年の性格傾向を是正し、少年をして、規律ある生活態度を体得させ、併せて義務教育課程の教科学習を受けさせるためには、少年を教護院に送致・収容するのが必要かつ相当であると認められるので、これと同旨の原決定の処分は、これを相当として是認すべきものであり、所論指摘の諸事情のうち肯認しうる諸点を十分斟酌しても、原決定の前記処分が所論のごとく著しく不当なものであるとはとうてい認められない。論旨は理由がない。

よつて、本件抗告は、その理由がないから、少年法三三条一項、少年審判規則五〇条に則り、これを棄却することとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 菅間英男 裁判官 服部正明 土川孝二)

〔参考一〕 抗告申立書

申立の理由

一 原判決には、原決定に影響を及ぼすべき法令の違背がある。

少年審判規則第三六条は、「保護処分の決定をするには、罪となるべき事実及びその事実に適用すべき法令を示さねばならず」又、同条は、触法少年・虞犯少年の場合にもこの規定の類推適用を認めうべきものとされている(司法研修所「三訂少年法概説」八八頁・同旨大阪高裁昭和五〇年一〇月七日決定)。

ところが、原判決の事実の摘示では「昭和五三年夏以降、万引・ひつたくり・自転車窃盗等問題行動が多発……」と本件送致の経緯について判示するのみで、原判決の他の記載と総合しても未だ原決定が少年法第三条二項又は三項のいずれを構成する事実を認定したか明確でなく、仮に前者であるとすれば触法行為の特定が不充分であり、又後者であるとすれば第三項のイないしニのいずれの事由によるのかが明確でない。

右は規則三六条に反するばかりか決定に影響を及ぼす重大な手続違反に相当する。

二 原決定の処分は著しく不当である。

事件記録中「一時保護の行動観察票」によれば「日課上、特に問題はなく」、「乱暴な行動も言葉もなく」「職員がみていなくても真面目に清掃を行い」「自分勝手な行動はとるが、」「集団適応も可能」であり結論的には、「所内生活では問題はみられず」「環境整備」が必要とされている。

成程、父親が仕事のため留守がちであり母親も又夜間勤務であるなど、家庭環境が良好とは言い難いが、環境改善が不可能とはいえず、父親は現在小笠原に出張ではあるが少年を同地に引取り良好な自然環境の中で学校教育を受けさせることを計画中である。

いずれにせよ、昭和五四年五月(措置会議の段階)以降環境整備への意欲が高まり、且つ少年の非行傾向も弱まりつつあるのであるから、本件は一時期、保護観察によつて環境の整備をはかりつつ社会適応性を養わしめるのが相当な事案であり、これを性急に教護院に送致する旨認定した原審判は結論において著しく不当であり、取消しを免れない。

三 尚、当附添人は本件を昭和五四年一一月二七日夕刻に受注し、二八日午前中家裁において記録閲覧を求めたが、生活記録が庁内になかつたため事件記録のみ調査し得たにすぎず、生活記録については後刻同二八日午後二時頃閲覧の機会を与える旨の連絡を受けたが、他の事件処理との関係で物理的に不可能であつたので追つて同記録を調査のうえ本申立理由を補充したい所存である。

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